本邦では高齢化社会に伴い、認知症の方も増加傾向にあります。その中で最も多いのがアルツハイマー型認知症であり、認知症患者の半数以上を占めています。緩徐に進行することが特徴であり、その症状は「中核症状」と「行動・心理症状」に分けられます。
「中核症状」とは少し前のことを忘れる、物の置き場所がわからない、日付がわからない、季節に合った服を選べない(厚着、薄着をする)、家事の要領が悪くなる、通いなれた道で迷うなど、根本的な認知機能低下による変化を指します。
「行動・心理症状」とは認知機能低下に付随して発生し得る精神的な症状です。いらいらして怒りやすくなる、今までの日課もせずぼうっとしている、誰もいないのに誰かがいると話す(幻覚)、自分の物を盗まれたと言う(妄想)、同じところを意味なく行き来するなどといった症状です。
今回は家族がそんな認知症になったときの接し方のポイントについて説明いたします。
まず最も大事なことは「本人の気持ちに寄り添うこと」です。特に初期は自分の変化について苛立ったり、情けなく感じたり、不安を感じたりしやすいものです。周囲に気付かれないようにして一人で不安を抱えている方もいらっしゃいます。物忘れや何かミスがあった際に、ついつい本人を怒ってしまったりしていませんか?実はそれは逆効果なのです。「怒られた」という嫌な感情だけが残ってしまい、その後の行動が消極的になり、より一層認知症を進行させる結果となります。認知症と診断されても、できることはたくさん残っているため、家庭内での役割や出番を作り、前向きに生活を共にするのが良いでしょう。
いらいらしていたり、不安が強かったり、あるいは幻覚や妄想を話したりされるとつい否定してしまいたくなるものですが、ここでもまずは気持ちに寄り添い、話を聞くことが大切です。「不安だね」「こわいね」などと共感する姿勢が何よりも本人を落ち着かせることができます。その後に話題を転じ、気持ちを他に向けさせることも効果的です。
物忘れを進めないためにやれることはないか、といった質問もよく聞かれます。最近のことを話すのは苦手でも、昔のことはしっかりと思い出すことができるため、昔話をたくさんしてもらうと良いでしょう。また音読や書き取り、計算問題などのドリルも脳の活性化に役立ちます。音楽鑑賞や園芸、絵画や陶芸、有酸素運動も有効です。何もせずに一日を過ごすのでなく、無理のない範囲で楽しんで過ごすことが大切です。
「認知症は病気である」ことをきちんと理解して、「何が正しいか」よりも「どうしたら円満・円滑に過ごせるか」を考えて対応することで、より良い生活を送ることができるでしょう。